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寒い夜

 

 とある冬の日。
 その日はいつもに増して寒さが身に染みた。普段ならば多少の寒さには我慢して外出する村人も、身を切られるような寒風に耐えきれず家に籠りきりになった。  村長である静子の家も例に漏れず寒さに晒され、家の中はすっかり冷え切っていた。
 陽光の射す昼間ですら寒さに身を縮こまらせていたが、日暮前には寒さは一層厳しさを増し、耐えかねる程になってしまった。
 あまりの寒さにヴィットマンたちも寝床から動こうとせず、暖を取るために全員が密集して丸まり一塊になっていた。

「さ、寒い……」

 室内にいてさえ呼気が白く煙る状況に、静子は息を吐き出すと同時に身を震わせる。それなりに服を着込める静子ですらこの状態だ。他の村人はもっと寒いに違いないと彼女は思った。

「大丈夫ですか、静子様」

 寒さに震える静子の下座(しもざ)に座っている彩(あや)が、寒がる素振りさえ見せずに尋ねる。この状態でも平然としている彩に内心驚きながらも、静子は寒さ対策を講じる。
 寒さ対策と言っても囲炉裏の前で暖まる事と、温かい飲み物を飲むぐらいだ。
 それ以外に取り得る有効な対策としては、熱源である囲炉裏のある部屋を密閉することだが、日本家屋は至るところに隙間があり密閉とは程遠い。

「大丈夫じゃないかも。そ、それにしても彩ちゃん、寒くないの。私はさっきから震えが止まらないんだけど」

「北国(きたぐに)の出ですので、この程度の寒さには慣れております」

 やせ我慢か、それとも本当に寒さに強いのか静子には判断がつかなかった。
 しかし耐えられはしても快適とは言い難い、そもそも自分が耐えきれないと考えた静子は、何か良い方法はないか模索する。

(いくら寒さに強くても、限界を超えたら倒れる。重ね着をしようにもこれ以上の衣服はないし……そうだ!)

 良い案を思いついた静子は、寒さに耐えながら材料を集める。静子が何を考えているか分からない彩だが、自身の作業を中断して彼女の手伝いをする。
 材料が集まると静子はそれを慣れた手つきで組み立てる。少しして囲炉裏の部屋に簡易シェルターが完成する。構造はエスキモーのイグルーやモンゴルのゲルと同じだ。

 まず囲炉裏を中心に、囲炉裏上部に据えられた火棚と呼ばれる四角い吊り天井のような装置に3方向(北・東・西)から斜めに戸板を立て掛ける。
 床と戸板の接触面には滑らないように重石を置く、戸板同士の隙間を布やぼろきれで塞ぎ上部が開いたテントのように仕上げる。
 南は出入り口とするため戸板は設置せず布を合わせて着物の打ち合わせのようにする。
 入口から見て奥となる北側に藁を床から10cm程度積み上げ、その上にい草、更に鹿の毛皮を敷いて寝床を作れば完成だ。
 このシェルター内は囲炉裏によって暖められた空気と輻射熱を循環させ、放熱範囲を限定する事で熱のドームを形成する。

「これで少しはマシになったかな。さ、彩ちゃんも寝床に入る。あ、拒否権はないからね。2人の方が暖かかくなるのだからね!」

「はぁ……静子様がそう申されるのでしたら、入らせて頂きます」

「うんうん。じゃ寝る準備したら、ここに集合ねー」

 数十分後、両者とも寝間着に着替えて囲炉裏の部屋に戻る。
 寝床にまず静子が入る。彩は静子が入ったのを確認した後、深々と頭を下げてからおそるおそるといった様子で横になり、上から上着を掛け布団代わりに乗せる。  最初は若干の寒さを感じるものの、しばらくすると明らかに周囲とは一線を隔す温度になる。

「すぴー」

 緩みきった表情で寝ている静子を見て、彩は小さくため息を吐く。隣に他人がいるのに、静子が油断して寝られるのが彩は不思議で仕方なかった。
 だが、不思議と嫌な気持ちにはならかった。信頼されている、という事はこれほど心地よいものなのかと思うと、胸の辺りがじんわりと暖かくなった。

(やれやれ、静子様は油断しすぎです。しかし、それがこの人の魅力なのかもしれません)

 静子は失敗すれば斬首を宣告されている。彩の考えからすれば、その状態でも他人が信じられる彼女が不思議だった。
 信じれば裏切られる、功を上げようにも他人にかすめ取られる、それが乱世の常識だ。ゆえに、血族でもない他人を心の底から信用する事など出来はしない。

(でも、悪い気がしません。思わず彼女のために働こうと思えるぐらい……いけませんね、余計な事を考えると静子様の考えに染まってしまいます。今は身体を休める事にしましょう)

 普段より寒さが緩和されている事に、彩はホッと息を吐くと静かに目を閉じる。心地良い暖かさに包まれた彩が意識を手放すのに、それほど時を要さなかった。